|
|
|
|
꙳.☽
|
|
学生たちのざわめきをBGMにして、空を見上げたらもうすでに月が主役を張っていた。周り、控えめで健気に光輝を放つ星がまばゆい。
冬夜のつめたさをブラウンのコート越しに感じながら、かじかむ手を動かして電子の波に約束を放り込んだ。
『今日、21時』
一言で伝わる幼なじみの特権を発動させるのは、今日で最後かもしれない。
たぶん、わたしは多くのひとを傷つけすぎた。もうやめなくちゃならない。わたし自身、前に進めないから。
まずは、合鍵を返すと決めた。恋人のいない期間限定とはいえ、合鍵を持ち合っているのが普通じゃないなんてわかっているけれど、気付いてないふりをしていた。
わたしだけに許された恋人以上の、家族同然の特別を手放したくなくて。
あいかわらず大学には姿を見せない茉耶。わたしが代返できない講義はもうそろそろ4回欠席が溜まってしまうくらいかもしれない。
……まあ、わたしが取っていない講義には出席しているのかもしれないし、それこそいつかのように代返要員がいるかもしれない。



