低温を綴じて、なおさないで




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──その日はとっても珍しい日だった。


朝に強い直はどんなときも決まった時間に起きる。そのうえ早起きだからわたしが起きるころにはいつもカーテンは左右に纏められていた。



いま思い返しても、直がいつも通りの時間に起きていなかったのはその日くらいだったと記憶している。



高校二年の、5月半ば。赤色のリボンを結んで、透明なマスカラをまつげに乗せて、桃色の色付きリップを馴染ませて、余裕を持って学校に向かおうとしたとき、視界に映る、いつもと少しちがう違和感。



その違和感の正体を探るために視線を泳がせれば、すぐに正解が落ちてくる。隣のおうちのベランダ越しにつたえてしまうその部屋のカーテンが、閉じられたままだった。