「……っ、」
「なおくんと同じカフェで働いてたんです。何回か来てましたよね。なおくんが、先輩に知らない顔で笑うのを見てすごく嫌な気持ちになった。でもそんなこと、なおくんには言えなかった」
「……それは、わたしが全然気を回せていなくて、」
振り向いて、重なる視線。それに乗せられていたのは、わたしへの苛立ちや彼女自身のくるしみだった。それが涙となって、滲んでいた。
ほかにも人がいるこの空間が、わたしたちだけ世界から隔離されているように感じて、もう、逃げたかった。
直にまつわるわたし以外の誰かの気持ちとも、わたし自身との気持ちとも、ずっとこうして逃げ続けてきたから。限界だっていうのは、自分がいちばん痛いほど感じてる。
「付き合ってるひとが自分を見てくれないんですよ。わかります?この気持ち」
「……そんな、ことは……」
……そんなこと、ない。ちゃんと見てた、いやになるくらいに。



