低温を綴じて、なおさないで




彼女のつめたいトーンが空気をつたって、届く。


わかるに決まってる。覚えてるに決まってる。今でもその名前を思い出して認識するたびに、心臓が掴まれて振り回されている気分になって、いやな音を奏でるのだから。夢にまで見るの。



どうして一目見て思い出せなかったのだろう。



わたしの記憶の中、フォルダには分けていないから早く消したいのにずっと居座り続けている、森田真咲。


焼き付いているのは、わたしと同じ制服で黒く艶めくショートボブを揺らしてまっすぐ花が咲くように笑う姿。



造形は変わっていないし幼い顔立ちなのはそのまま、記憶の中の彼女より大人っぽく、ゆるく、落ち着いて笑うようになった気がする。



短い制服のスカートから一転、ロングのタイトスカートを履いていたのも印象が変わった要因かもしれない。