“栞先輩”とわたしの名前を言い当てられて、身体中電流が走ったみたいに、ハッとした。どうしてすぐに気が付かなかったのかわからないくらい。
痛いほど知ってる。くるしくてつらくて、嫌になるほど、わたしはこの子を知ってる。この子だけを、知ってる。わたしがいちばんわかってるはずなのに。
わたしの人生でいちばんの憂鬱を与えた子。醜くて身勝手、独りよがりで、わたしのエゴだけで構成されたどろどろな感情を奥底から引っ張り上げてきた子。
わたしのわがままとよわさを直にぶつけたきっかけの、あの子。
「覚えてます?私のこと。まあ栞せんぱいは私のことなんて知らないか、大勢いる元カノのことなんて。その元カノたちからの認知度は100%ですけどね、せんぱい」
さっきまで貼り付けていた柔らかさと和やかさが、一気に崩れてストレートに強い嫌悪感を向けられた。
声色が一段階低く、口角が下がった。後退りしてしまいそうな圧が乗っかった。
「──森田真咲、って言ったらわかります?」



