“なおくん”と届けられる予定のなかった名前はすとん、と耳の奥へ入り込む。

それでいて、“なおくん”がさっきわたしのほうから話題に出した幼なじみであるときちんと認識できていた。それでも、なぜこの子が直のことを知っているのか、わたしとの関係まで知っているのか、確信できずにいた。



もうすぐそばまで答えは見えているのに。喉で引っ掛かっている。




柔らかな口調と声色も、和やかな笑みもそのまま。それなのにどこか刺々しさと敵意を向けられたような気がした。



周りの音、すべて遮断されたかのようになにも入ってこなくなった。今この瞬間だけはわたしの世界では、なおくん、と発したこの子の声しか許容しなくなった。




「よく読みに行ってました。なおくんのお部屋」




わたしのターンにはさせないと言わんばかりに、次から次へと言葉が矢のように放たれていく。刺さる。ずっと変えない表情がこわい。何も読みとらせてもらえない。



わたしより小さくて可愛い小動物のような彼女に、圧倒される。




「ね、栞せんぱい」