「こんにちは。もうそろそろかな〜って、待ってました」


「わ、わたしのことを、ですか?もうそろそろって?」


「それです、里見先生の新作」




手に持っていた分厚い単行本を指されて、思い出した。ぱっとあのときの映像が頭の上に浮かぶ。



──あの子だ。この本を借りにきたとき、前にいた子だ。確かにそのときもこの本はまだ借りられないのかと聞いていた。



豆電球が頭の上に浮かんだみたいに、点と点がつながって線になって、納得する。




「遅くなってごめんなさい。今から返すから、すぐ借りられるはず」


「ありがとうございます!実は里見先生の小説、高校生の時からずっと好きで楽しみにしてたんです」


「そうなんですね」




愛想良く、親しみやすい柔らかな口調で伝えてきてくれるから、はやく返そうと会釈だけして受付へと再び向かおうとすれば。



まだ彼女の言葉には続きがあったようで、声につられて足の動きを止める。