低温を綴じて、なおさないで




「……矢野さん。私たち、恋人、になったんですよね?」




朝、身体が痛くてだるくて重くて起き上がれなかった。彼の匂いが染みついたベッドに横になったまま、もう隣にはいないそのひとへ、ソファーを沈めている矢野さんにおそるおそる投げかけたら、つめたく掠れた無感情な声で返された。




「は? んなわけねーじゃん」


「え、でも何度もすきって、運命だって、」


「だってあんた、そうでも言わなきゃヤんなかっただろ。ムードって、知ってる?」


「……な、なにそれ……」




声の低さが地を這う。泥沼まで低い、声色だった。


それでも、そんな最低なことを言われても、私はもう彼に身体を許してしまった。取り戻せない。受け入れた事実は変えられない。



私のプライドと、かたかった貞操観念が惨めにも縋ろうと、枯れた喉を無理やり動かした。