低温を綴じて、なおさないで



耳たぶを一瞬だけ口に含まれて、思わず変な声が出てしまった。そんなこと、されたことなくて。



慌てて、ぐっと身体を離す。私の頭の中には1ミリたりともなかったとんでもない提案をしてくるから、火照った顔がバレないように、自然となってしまった上目遣いで顔を覗き込む。さっきまでとは違う余裕そうなあいまいな笑みを浮かべて、薄い唇を動かした。




「もっとかわいー声、聞かせて? 肌を重ねてぎゅってするの、きもちいいよ」


「だ、だってでも、今日会ったばかりのひとには、その、見せられないというか!」


「……でも俺、特別だって思ったよ。一目見て、目が合って、運命かもって」


「……──え、」




私が、一目見た時から、思っていたこと。

矢野さんも、同じことを思ってくれていたの?




うれしくて身体の中心がきゅっとする言葉を受け取って、隙ができたのを矢野さんは見逃さなかった。


その隙は、私の了解が含まれていることも同時に汲み取っていた。




「絶対よくなるから、ね?」