それぞれの会話が風船のようにふわふわ飛んでいた。


自分の座るテーブルでもなにか会話は浮かんでいたと思うけれど、なにひとつ入ってこなかった。ふと、見過ぎていたせいか、遠い距離、確かに彼と目が合った。矢が飛んできて、射抜かれたような感覚に、どきどきと心臓が高鳴った。



さすがに視線を送り続け過ぎていた、気持ち悪がられてもしかたない、と逸らして、近くの会話に参加するでもなく目の前の烏龍茶を眺めていれば。



視界の端、誰かが隣に腰掛けた気がして顔を向けたら、心臓といっしょに肺が止まって、いっしゅん、息のしかたをわすれた。




「……あ、」


「隣、いいかな?」




きらめく太陽が、すぐ近くに降りてきた。

間近で見る彼は、火傷しそうなくらいに眩しくてくらくらした。



──矢野葉月、さん。


私からいちばん遠かったそのひとが、今、肩が触れてしまいそうな距離にいる。