低温を綴じて、なおさないで




思い込みたくて、決めつけていたんだ。直は誰からの告白も断らなくて、わるく言ってしまえば来る者拒まず。それがよくもわるくも直のやさしさなんだと思っていた。



茉耶の告白を断った、という個別具体的な話よりも、これまでも断った女の子はいて、歴代彼女は直に選ばれた子たち、と考えたら。またわたしの中の黒が濃く深くなって煮詰まって泥濘から引っ張り出せなくなる。



すぐに別れるのは、選んでいないからこそだと確信していた。だから、耐えていられたのに。




「そんなことはない、けど」


「……どんな理由であれ、………栞の友達のこと傷つけた。ごめん」


「……それは、わたしにはどうだっていい。茉耶のことはだいすきだから恋は叶ってほしかったけど。でも、茉耶と直がふたりで笑ってるの、見てられなかったと思うし、たぶん応援できなかったから。直相手なら、叶わないでほしい、って思ってた、」


「……栞、それどういう意味」




いつかも聞いたような、直の言葉。


まっすぐ向けていた顔を直のほうへ向けたら、ばちっと暗闇の中でも確実に目が合った。わたしだけをまっすぐ見つめる嘘偽りのない正しい瞳に、すべて委ねたくなってしまう。