低温を綴じて、なおさないで



「ほんとにもういいの。きっと恋じゃなかったの、最初から」


「…………でもさ。求めてくれて、会えるならそれでいいのに」


「え?」




いつもきらきら輝く瞳を縁取るブラウンのまつ毛を伏せて、ぽつり呟いた茉耶。聞かせるために準備された声ではない。地を這うように低く、独り言のようなトーンで、うまく聞き取れなかったけれど。



普段、明るく弾けるような笑顔を乗っける茉耶だからこそ、きょうの空のように暗く曇った表情と声色が際立って、わたしの脳裏に刻まれた。



それでもすぐにいつもの茉耶の愛嬌いっぱいの華やかなオーラが戻って、刻まれた暗い顔がすぐに華やかにアップデートされた。




「……なーんて! なんでもなーい」




へへ、と可愛く、いたずらに成功したように笑った茉耶にはもう、曇りはなかった。



……たぶんね。