ドライヤーの風とともに宙にゆらめいて溶けていった二文字。さ行とか行を組み合わせたこの言葉をいま、言うつもりは1ミリもなかったし、直に抱いている感情でもないと思っていた。
無意識だ、恐ろしいほどの無意識が、わたしから弾けていった。
慌てて口をつぐって、あふれた二文字はなかったことにした。幸い、ドライヤーの騒がしさが掻き消してくれたようで、直からの返答は何もなかった。
それよりも、現在進行形でばくばくうるさくて鼓動がはやまった心臓が、直にバレてしまわないか心配になった。伝わってしまわないように、触れ合わないようにもう一度姿勢を正した。
どきどきと心臓が合唱をしている間に、わたしの髪の毛はしっかり乾いてつやつやさらさら、指通りが良くなった。
黒髪が艶やかにきらめく直の髪質をつくっているこのドライヤーを、わたしも買おうと決意した。勝手におそろいを増やしてみる。
振り返って、目線をすこしだけ高く上げて視線同士を結びつけた。
「ありがとう」と感謝すれば、きみはまたゆるやかに口角を上げて「どういたしまして」と笑うのだ。そうやって笑うだけで伝わるわたしへのやさしさがどうしようもなく、すきだよ。……──あくまで、幼なじみとして、人として。
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