「熱くない?」 「うん、大丈夫。ありがとう」 直も、歴代彼女からドライヤーを受け取っていなければいいのに。 髪の毛にやさしく触れる指先の感覚も、熱くないか声をかけてくれる配慮も、わたしに向けてだけならいい。たぶん、無理な願い。 「……直」 不意に、きみの名前を呼びたくなった。20年間で、いちばん口にした名前。家族でもなければ、恋人でもない。 それでも20年ずっと一緒にいる家族みたいで恋人みたいな、ただの幼なじみ。 「(……あ、聞こえてない?)」