低温を綴じて、なおさないで





わたしの近くでしゃがんで目線を合わせて、3秒見つめられてからふわりと目尻を下げて微笑まれた。



立てるか、なんて心配されたらどうしたってきみからの甘さを思い出してしまう。高校のあのときは簡単に仕舞い込んでなかったことにできたのに、そんなに時間が経っていないからかいちいちどきどきして、直が暴いたわたしを思い出しては恥ずかしくなる。同時に、また直に迷惑をかけてしまった、と罪悪感にも支配される。



もうすっかり葉月くんのことなんて頭にないのは、ほんとうにわたしが葉月くんのことをすきじゃなかったからだと、思う。


葉月くんで満たなかったコップを直のあまいやさしさでいっぱいにした。自分ひとりだけ被害者づらして甘えて、つくづく最低。薄っぺらくて空っぽなのは、わたしも葉月くんも同じで同類だ。




「ね、直、きょう午前中講義入ってるよね?」


「あー……休んだ。そんなことより栞のほうが優先」




「だから気にしないで」と髪をすっと撫でられた。それでもそれはほんの一瞬。



もう、幼なじみの距離に戻っている。わたしのことが最優先でやさしさをくれるのは、“幼なじみ”だからいつものことだ。