こわしてって言ったのに、今までのどんなひとよりやさしくて、ずっとずっと勝手にわたしから逃げる涙がきみの汗ばんだ肌に吸い付いていっていた。
「なかないでよ、栞」
切なげに瞳を揺らした直に、心のなかでむりだ、と答えた。きみがやさしくすればするほど、涙が止まらなくなっていったのだから。
ゆっくりしつこいくらいに甘やかされて、涙とうわずった声が、ずっと、止まんなかった。
“なかったことにしよう”
そんな言葉すら、わたしたちには野暮だった。
「ごめんね、直」
そうとだけ伝えたら、「ん」と低く掠れた相槌で、触れるだけのキスを最後に一度落とされて、“たった一度”を言うまでもなくお互いに心の奥底に閉じ込めた。
しっとりと吸い付いていた肌の感覚はいまでもわすれられない。甘くてやさしくて熱いのに、どうにもこうにもきみの体温が低かったから、低温のまま、むすんで、綴じた。
そのあと、何回かわたしにすきだと伝えてくれていた同級生と付き合い始めた。3ヶ月しか続かなかった。
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