「……っ、」
その瞬間に、どうしようもなく、どろどろした感情がわたしのなかのどこからか、湧き上がってきた。きっと元々どこかにあって、蓋をしていたような自分でも認めたくない、泥濘を彷徨う感情。
“なおくんへ”
女の子特有の、丸っこくて可愛らしい文字で直へと宛てられた横向きの手紙。白い封筒、お利口さんに引き出しに住むそれに、どくどくと心臓のいやな音がわたしのBGMを変えてゆく。
──嫉妬、独占欲、喪失感、羨望。どの言葉を当てはめたらいいかわからないくらい、何重にも感情が重なって絡まって、混ざっていた。
混ざった感情にはすべて黒が潜んでいたから、もやもやとまとわりついた心のなかは黒が勝ってしまう。
ざわついて支配するこの醜い想いは瞳の表面に水分を送って、ぽろぽろと溢れ出す。なにをしているんだろう、自分。
直に彼女が何人できようが、すぐに別れるし、彼女の話こそ聞いてもすきなひとの話は聞いたことがなくて、なんとなく最後はわたしに想いが向くんじゃないかって淡い期待をしていた。なんでそんな勘違いをしていたんだろう。わたしは小説やドラマのヒロインではないのに。



