「俺はさ、栞、」
「っ、……な、に、」
「…………なんでも、ない。あのときより優しくできるから、全部委ねてよ」
「……っ」
──あのときだって、十分やさしかったよ。壊してほしかったのにやさしすぎたのだから。
今は、あのとき以降の女の子の影がむしろくるしい。ほんとは、増えないでいてほしかった。
「これからしばらく、首元隠れる服着て。誰にも、見せないで」
「ごめんね、ごめん、直、」
「謝らないで、大丈夫だから。俺こそこんなん、ごめん。もう、なかないで」
あまくやさしく目を細めた直がもう一度わたしの唇を掬った。目を閉じて受け入れたら、もう直からの感覚にしか意識がなくなる。合わさった唇の隙間、絡み合う熱の間から、自分のものとは思いたくない甘い声が逃げていく。
……──ね、直、わたしね、
すきなひとじゃないといやで、
すきなひとがよくて、
……それでも、直なら、いいの
──よわくて、いやな感情に苛まれるわたし。たった一回だった、わたしが直を求めたのは、あのときだけだった。
なのに、綴じたはずのきみの低温を、また求めてしまった。
☁︎·̩͙



