「えーー」とまだまだ不満をこぼしそうな、むくっとさせた可愛い顔を眺めていれば、ふと机の上のスマホが音を立てて震えた。
演習室に一瞬だけ機械音をもたらしたのはくすんだベージュの、わたしのほうのそれだった。
『新着メッセージ 1件』と表示された画面に自身の顔を映せばあっという間にアプリに飛んでいく。
隣で茉耶が「噂をすれば、の矢野さん!?」とわたしに問いかけるように目をきらきらさせているけど、ごめんね、はずれ。
わたしにメッセージを届けた相手は、星マークとともにいつもいちばん上に居座るひと。
さっきまでわたしのなかを這っていた憂いが、ほんのすこし、スキップをしながら軽やかにカーテンの外へ逃げ出していった。
『今日、21時 いつもの』
日にちと時間、これだけ。
これは、わたしと直だけの、合図。
もう一方のスマホは静かにちょこんと置かれているだけ。
茉耶に返信をしない直が、わたしに向けて幼なじみの特権を投げ込んだ。
⸝⸝꙳



