꙳.☽
持ち歩いている合鍵で直の家に入った。最近はあまり来ていなかったけれど、前に来た時と変わらず片付いていてすっきり綺麗な部屋。合鍵の効果を単独で発揮するのははじめてだった。
閉まっていないカーテン、窓から差す月の光で十分だったから、電気もつけずに彼を待った。
ソファーの上でしばらく膝を抱えて待っていれば、玄関のほうから物音が聞こえた。顔を上げると、廊下を歩いて近づいてくる部屋の主をとらえた。
薄暗い中で目が合って、直が電気をつければぼんやりと交わっていた視線がばちりと重なった。すこし泣いていた跡が見えてしまったのか、鞄を雑に床に投げた直がわたしに駆け寄る。
整理整頓されたこの綺麗な部屋で、鞄の定位置は当然にあるはずなのに、それはテキトーに追いやられてしまったのだ。



