「週末、ご飯に行くよ」
「えー!もう3回目?4回目?とかだっけ!もうそろそろなんじゃない!?」
「どうなんだろね、わかんない、お互い」
「えー、そういうもん?」
「そういうもん」
矢野さん、というのは大学のひとつ上の先輩で、最近知り合いに紹介されて何回か会っているひとのことだ。
──矢野葉月、わたしが“葉月くん”と呼ぶそのひとは、わたしのことを“栞ちゃん”と呼ぶ。
わたしが彼に向けている気持ち、彼がわたしに向けている気持ちを、咀嚼して理解しようとは思えていない。
不明確で曖昧で、宙にゆらゆら浮かんでいるから、掴む手すら伸ばしていない。
「矢野さんなんて超優良物件なのに、贅沢だなあ〜」
「……片方からの矢印じゃ成立しないから、仕方ないよ」
同じ温度で、同じかたちで、お互いに向けなければ、合わさらない。
ふたつがひとつになるのはとても難しくて、だからわたしは同じ温度を向け続けている。
それは、葉月くんに限らず、誰にでもそうしているつもりだ。



