願うなら、きみが


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「まーた読んでる」

「あ、お疲れさまです」

「休憩中?」

「はい。めちゃめちゃ疲れました」

「じゃあ、チョコ食べる?」

「わーい! 食べますっ」



バイトの休憩中。更衣室兼休憩室で本を読んでいたら、先輩が出勤してきた。

〝また〟と言われるほど、私はバイトの休憩中に本を読んでいることが多い。疲れていたって、星谷くんにおすすめされた本を読む元気だけはある。



由真(ゆま)先輩、いっつもお菓子持ってますね」

「ひおが食べると思って」

「またまた。そうやっていろんな女の子にあげてるんでしょ」

「そう見える?」

「見えます」



ひとつ上の先輩、 藤原(ふじわら) 由真(ゆま)先輩。先輩は唯一、私のことを〝ひお〟と呼ぶ。陽織(ひおり)だから、ひお、らしい。


そんな先輩とは、なんと高校も同じで。バイトを始めた頃、同じ学校の制服を見つけてすごく驚いたのがもう懐かしい。まだ数ヶ月前の出来事なのに。



「そんなこと言う子にはあげない」

「うう、ごめんなさい」

「偉い偉い。ちゃんと謝れて」



「はい」と手のひらに乗せてくれたのは、包み紙に入ったチョコレートひと粒。先輩はこうして、会うと高確率でお菓子をくれる。


まるで餌付けされているみたい。だけどそんな先輩に、私は出会ってからすぐに懐いてしまった。



「由真先輩、ありがとうございます」

「いーえ」



口の中に放り込んだチョコレートは、想像していたよりも少しだけ甘い。ゆっくりと舌で溶かしながら、包み紙を半分に折る。

入り時間まではまだ余裕がある先輩は、私の向かい側に座って同じチョコレートを口に含んだ。その様子は、例えるなら映画のワンシーンを見ているみたいだった。

ミルクティーみたいな色をした髪の毛は、触ったら柔らかそうだなあといつも思う。アーモンドのような形をした色素の薄い瞳と視線が合えば、血色のいい薄い唇の端っこがほんの少し上がった。



「なーに、ひお」

「先輩って、絵みたい」

「それ、褒めてる?」

「褒めてますよ」



先輩とこうして話す時間は、ただただ、心の中が落ち着く。