「どこがとか、ないよ」
「えー、そうなの?」
「ないっていうか、わからない」
わからないのか、そうか。でもたしかに、私も星谷くんのどこが好きなのって聞かれたら、具体的なことは言えないかもしれない。
「わからないから、嫌いにもなれないのかな」
小さな声でそう呟いたのを、聞き逃さなかった。星谷くんは随分と、寂しいことを言う。
嫌いになれない? 違う、それは私とは違う。だって星谷くんを嫌いになる方法なんて、1度も探したことはないから。
「星谷くんは、先生のこと嫌いになりたいの?」
「さあ、どうなんだろうね」
「別の恋をしようとか思わないの?」
「思ったことがないわけじゃないけど」
「じゃあ、クラスの誰かに目を向けてみるのは?」
「誰かって?」
「……たとえば、私、とか?」
私のこと、女として意識すればいいのに、と。それだけを願ってそう聞いてみた。どうせなにそれ、と適当にあしらわれると思ったけれど、それに対して星谷くんから返ってきたのは、「ね」のひと文字だった。
それは、〝そうだね〟の〝ね〟なのか、なんなのか。とにかく私にとっては予想外の返答で、ドキリと心臓が跳ねた。だからそのひと文字にどんな感情が乗っているのか確かめたくて、「え?」と聞き返す。
嬉しい答えなど、期待はしていない。ただ、知りたいだけ。
「八代のことを好きになって、もし付き合ったらさ」
「うん」
「なんか、楽しそうだわ」
「、」
「八代、本好きだし」
「うん……好き」
「でもまぁ、安心して。そんな日は来ないから」
「俺に好かれたって困るでしょ」と、抑揚のない声が耳に届く。違うよ、星谷くん。私が好きなのは、本よりもきみだよ。
つい、言いそうになった。だけどそれを喉の奥に飲み込ませたのは。
「それに、あのひとのことしか好きになれない、たぶん」
息を吐くようにそう言った、星谷くんの言葉だった。


