願うなら、きみが






夕陽に照らされて、黒髪がきらめいた。星谷くんは私の言葉を待っているけれど、きっとそれを聞けば、その目はこっちを向かなくなる。

だからほんの少しズルをして、「うーんとね」と時間を稼いだ。

目立つタイプではないけれど、綺麗で繊細で、儚げな男の子だ。大人しそうな顔をして、本当はその内側でどれくらいの熱を燃やしているのだろう。


知りたくて、気になって。


教えてほしい、星谷くんの胸の中を。


存分に彼を眺めて、息を吸う。それからなるべく笑って聞いた。



「先生の、どこが好きなの?」

「はぁ……なんで」

「先週おすすめしてくれた本読んだら、聞きたくなったの」

「……またそんなこと言って」



想像通り、合っていた視線はほどける。先週借りたのは、恋愛が絡んでいる小説だった。もちろん、そんなことが理由で聞いているのではない。



これは、少しずつ距離を縮めていくための質問。実際縮まっているかどうかはわからないけれど、私が見る限り星谷くんは、この話題を嫌がってはいないと思う。



そもそも星谷くんが先生のことを好きだってことについては、春の終わり頃に本人に直接聞いた。


『星谷くんってさ、好きなひといる?』

『なに、急に』

『これ読んだら、誰かに聞いてみたくなったの』

『じゃあいるとして、その相手は誰だと思う?』

『えー、当てちゃうけど、いいの?』

『うん、いいよ』


その流れで先生の名前を出せば、星谷くんは少しも驚くことはせず、『正解』とただひと言そう言った。

まるで私がそれを知っていたことを、わかっていたみたいに。


本人の口から答えを聞くまでは、ただの私の予想でしかなかったそれは、声に乗せられて言葉になって、私の元へ真実として届いてしまった。


あんなに嬉しくない正解は、初めてだった。


それでも彼に尋ねたのは、やっぱり本当のことが知りたかったのと、ふたりだけの秘密みたいなものを作りたかったからかもしれない。


現に今、彼が先生のことを好きだってことは、私しか知らない。

秘密の共有、そして、唯一それを相談できる相手。星谷くんにとって私がそんな存在になるように。



わかっている。こんなふうな近づき方は、たぶん、卑怯だってこと。