願うなら、きみが






いつもの先輩と雰囲気が違うように感じたのは、あの日のあの一瞬だけだった。


どうしたんですか、何かありましたか。先輩がいつも私にかけてくれる言葉たち。それらを与える暇もないほどに、それは一瞬だった。

あの後の先輩は、本当にいつも通りで。ほんの少しだけ感じた違和感をここで確認するのは間違いなのかもしれないと思って、結局何も聞けなかった。


今だって、「小動物が見たい」と、純粋にこの場を楽しんでいるように見えるし。元気が無さそうな素振りは1度もないし。

もしかしたらあれは、あの表情は。ただの私の気のせいだったのかもと、今となってはそう思う。



「なに、ひお」

「、え、いや」

「ちゃんと前見て歩きなさい」



無意識に先輩の顔をじーっと見ながら歩いていれば、先輩の瞳に捕まった。まるで学校の先生みたいな口調で注意をされて、言う通りに正面を向く。



「はぁい」

「よし。ね、ひおはなんの動物見たい?」

「えー、なんですかね。おっきい動物とか」

「はは、おっきい動物って。キリンとかね」



先輩と話しながら、前を見て歩いて気がつく。

すれ違うひと、特に若い女の子たち。ちらちらと先輩のことを見ている、気がする。


確かに今日の先輩はかっこいい。

グレーのセットアップに、アクセサリーはシンプルなゴールドのバングル。

モノトーンで落ち着いているにも関わらず、なんだかこう、きらきらして見える。


やっぱり、すごいなぁ、先輩。



「もう、ひお。俺の顔なんか付いてる?」



再び先輩と目が合ってハッとする。いつの間にかまた、前を見ることを忘れていたらしい。目を細めた先輩から、2回目の注意を受けてしまった。



「はっ、違います。つい、というか……」

「なーに」

「先輩、女の子たちにすっごい見られてるから」

「えー、何それ」

「何って、もう、先輩がかっこいいからですよー?」

「……」

「? 先輩?」



褒め言葉のはずの、それ。

だけど今まで返ってきていた返事が、急に返ってこなくなって。

何も返さない代わりに先輩は歩みを止める。だからつられて私も立ち止まった。