「なに、読んだことあった?」
「、ないよっ、じゃあこっち読んでみるね」
私の好みを知ってくれているかのようなそれに、胸がときめく。だけどそれもそうか。だって彼から本をすすめてもらうのは、これで何冊目だろう。それでも、嬉しいことに変わりはない。
簡単にくすぐったい気持ちをくれる。そのことに本人は気がついていない。
──だけどそれでいい。きっと、そのほうがいい。
「じゃあ処理するから、あっち」
「うん」
また、私よりも前を歩く。だから後ろをついていって、その背中を追う。
私よりもずっと背が高く、細身で黒髪が綺麗な彼は、星谷 瑞希くん。
同じクラスの、図書委員の男の子。
私は星谷くんが当番の日の放課後、こうして図書室に来ては彼のおすすめの本を借りている。
1週間に1度のこの日を、私はわくわくしながら待っている。
でもそれは、星谷くんも同じだ。
私とは、違う理由で。
貸し出しの手続きをしてくれている星谷くんの手元を見ていると、カウンター奥の小部屋の扉が開く音がした。私と星谷くんの視線が、同時にそちらへ向く。
「あら、八代さん。また本借りてくれるの?」
「先生……あ、はいっ」
「ふふ、ありがとう」
瞳の奥が揺らめいたのがわかる。その瞬間を見るのは、何度目か。揺らめいたのは星谷くんの瞳であって、私はそれを盗み見ている。
どれほど見つめたって、彼は気がつかない。だってその目は私のことなんて見ていないのだから。
星谷くんが、見ているのは──
「じゃあ星谷くん、もう帰っていいよ。田中さんにも言っておいてくれる?」
「……はい」
「今日もお疲れさまでした」
笑顔の可愛らしい、小柄な女性──朝倉 小春先生は、現国の先生であり、司書教諭を兼任している。
もちろん、図書委員の担当の先生でもあり、
「朝倉先生、さようなら」
「気をつけて帰ってね、星谷くん、八代さん」
星谷くんの視線を、一瞬で奪ってしまうひとだ。


