願うなら、きみが






もうとっくに、桜は散っていたような気がする。







『弟の瑞希』

『えっ、似てる! かわいい!』

『……』

『こら瑞希。挨拶くらいしろ』

『初めまして……! 朝倉 小春です』

『……どーも』

『おい、瑞希、』

『いいのいいの。ごめんね? 突然お邪魔しちゃって』



小学6年生になったばかりの春。年の離れた兄、大希(だいき)が家に連れてきたのが、彼女だった。


いいひとそう、というのが第一印象。小柄で小動物みたいなひと。

当時はふたりとも大学生で、まだお互いに実家暮らしで。この日はなんの前触れもなく急に彼女を連れてきたものだから、ついびっくりして少々感じ悪く接してしまった。


でもそんな俺にも彼女は笑いかけてくれて、大希の部屋で自分のことやふたりの馴れ初めを楽しそうに教えてくれた。

聴いていて心地のいい声で、速度で、トーンで。話し方がいいなぁと、出会って1時間もしないうちにそう思った。



〝小春さん〟より〝小春ちゃん〟が似合う、そんな女の子。

彼女はやさしいから、俺が疲れていたり機嫌が悪かったりでどれだけ素っ気ない挨拶をしたって、会えばいつも『お邪魔してまーす』と笑ってくれる。



年が離れているということは、充分わかっていた。だけど気がつけば、クラスでよくかわいいと言われている女の子よりも、彼女の方がうんとかわいく思えて。



『お前、小春のこと見すぎな』

『み、てないし』

『ふふっ、照れちゃうなぁ』



かわいらしく笑いかけられるたびに、心臓が小さく跳ねる。


わかっていた。兄の恋人だと。年齢が10も離れていると。

それでも、自覚してしまったものは仕方がない。






好きだと、認めた方が楽だった。