──「あの、朝倉先生」
「あ、八代さん。できた?」
「できました……遅れてすみません」
「大丈夫よ、ギリギリセーフ」
3分の2程やっていて、すっかり忘れていた宿題。授業の終わりに気がついたのだけれど、時すでに遅しで。だけど先生が今日中に提出すれば大丈夫と言ってくれたので、帰りのホームルームの最中に爆速でやった。
そして今、放課後は図書室にいると言われて来たのだけれど、今日はやけに静かだ。きっとどこのクラスでも文化祭の準備が始まったのだろう。いつもはちらほら生徒がいるのに、誰もいない。
「次からは気をつけます……」
「お、偉い偉い」
先生にプリントを手渡す。普通ならちょっとはむっとされるはずなのに、少しもそんな顔をしないでそう言ってくれた。その表情を見て、ほっとする。
今教室ではみんなが文化祭の準備をしていて、本来ならもうすぐにでも戻るべきなのだけれど。
ちょっとだけ、躊躇ってしまう自分がいる。
だって、好きなひとの好きなひとと、ふたりきり。いつも星谷くんが瞳の中に映すこのひとを、じぃっと見てしまう。
敵わないひと。恋敵のはずなのに憎いと思えないのは、先生のことを嫌な目で見れないから。それは先生が、いつも丁寧でわかりやすい授業をしてくれていて、どんな生徒にもやさしいことを知っているから。
嫌に思うところが、ひとつもない。それは先生の人柄が素敵で、ちょっぴり憧れてしまうほどにかわいい大人のひとだからで。
「ん? 八代さん、どうかした?」
「あ……いや、」
「そんなに見つめられたら照れちゃうよ」
先生は、かわいらしく笑う。
見つめられると照れるのは、星谷くんに対してもですか?
彼にもこんなふうに微笑みながら、同じことを言うの?
かわいいなぁ、先生。やっぱり敵うはずがない。
「先生って、かわいいですよね」
「えぇ〜? 急になあに? 嬉しいけど」
「思ったことを言ってみた、だけです」
「ふふ、ありがとう」
「高校生の時とか、絶対モテてそう」
決して、そんなつもりはなかった。ただの雑談のつもりだった。大した意味などなかった。
だから、言わなきゃよかったなんて。この後そんなことを思うなんて、この瞬間は少しも思っていなかった。


