願うなら、きみが


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「──じゃあ星谷くん、問2の答えは?」



今日最後の授業。うとうとしかけていれば、そんな言葉が聞こえたので顔を上げてしまった。

6時間目、現代国語。私たちのクラスの担当は朝倉先生だ。なので今星谷くんの名前を呼んだのも、もちろん彼女である。



「ウです」

「正解。これは――」



先生が丁寧に解説をしてくれているけれど、私の耳はそれを右から左に流していく。先生、ごめんね。決して嫌いとか、そういうわけじゃない。むしろ先生のことは素敵なひとだと思っている。


ただ、私の興味が今は別のところにあるというだけだ。


名前を呼ばれてすぐの星谷くんをちらりと見たけれど、至って普通だった。好きなひとの好きな声に名前を呼ばれても、いつも通りだった。

だからまた、知りたくなる。本当はその胸の中で、紡がれた自分の名前をどんなふうに受け取ったのか、どんな気持ちになったのか。


ドキドキした? 嬉しかった?

それとも授業中は、そういうことは考えない?




わからないけれど、ひとつだけわかるのは。

先生のことを見つめる星谷くんの瞳は、やっぱりやさしいということだ。


寝ている生徒やスマホをいじる生徒がちらほらいる中で、星谷くんだけは真っ直ぐに先生を見ている。単に解説を真剣に聞いているだけではないってことはわかっているから、ちく、と胸に何かが刺さって抜けなくなる。


だったらやめればいい。今すぐ、机の上に突っ伏してしまえばいい。棘を増やす必要なんてない。


だけどそれでもそうしないのは、星谷くんのことを見るのをやめないのは。

彼のどんな表情も、見逃したくないからだ。


たとえそれが、別の誰かに恋焦がれている横顔だとしたって。