「ねぇ、ほんと目合わないね?」
「だ、だって先輩が……!」
「先輩が何?」
「〜〜〜っ、わかってるくせに……!」
それになんだか先輩は、前よりもちょっと意地悪になった気がする。
たしかに『たまにはやさしくなくてもいいのに』とは言ったけれど、このままでは調子が狂わされっぱなしだ。
「なら、3秒でいいからこっち見て?」
「3秒……?」
「うん。はい、よーいスタート」
「えっ」
ほら、また狂わされそうになる。
突然始まった見つめ合いに、なんとか応じる。慌てて顔を上げれば、綺麗なアーモンドアイがこちらを見ていた。一瞬で頬が熱を持つ。
久しぶりにしっかりと見た先輩の顔は、絵を描くひとがが絵にしたくなるようなそれをしていると思う。
「いーち、にーい……」
今までなんとも思わずに見ていた目なのに、それが嘘みたいだ。揺らがない瞳に真っ直ぐ見つめられて、逸らしたくなるけれどそれはだめで。
だけどこのまま続けたらきっと、私は沸騰してしまうくらいに熱くなっちゃうから。
先輩の〝さん〟が来るのを待つ。
「……」
「……先輩?」
それなのに、先輩のカウントは途中で止まったまま。すぐに気がつく。たぶん、わざとだって。でも勝手に終わらせていいのかわからなくて、逸らせなくて。
だからもうじっと見るしかなくて。早く数えてください、と必死に目で訴える。すると先輩が「ふっ」と笑った。
「な、先輩ずるい、もう終わり……!」
「ひお、顔真っ赤」
「先輩のせいです!」
だけどおかげでちょっと耐性ができたのか、先輩の顔をまだ見続けることができている。慣れというのはどうやらいきなり来るらしい。
先輩の顔を見つめる。すると、あることに気がついた。
……気のせいなのかな。でもたぶん、そう。
先輩の顔が、さっきよりも赤く染まっている気がするのだ。
「……先輩も顔、赤い?」
「え、うそ。見ないで」
「先輩が見てって言った」
「たしかに。ねー、恥ずかしいんだけど」
先輩の知らない顔。見たことのない顔。
「そりゃ好きな子に見つめられたらこうなりますよ」
「っ、」
「じゃあ、早く戻っておいでね」と、先輩の手が私の肩にトントンと2回触れた。
先輩のそういう顔も、意地悪も、触れられた肩も。
全然嫌じゃないのは、どうしてなんだろう。


