願うなら、きみが






「な、なんか暑いからかもです……! 外の空気吸ってきます……!」

「えっ、大丈夫? 体調悪い?」



半分本当のことを言えば、隣の席の結香子さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。大事にはしたくなくて、ぶんぶん首を横に振った。

よかった、今が冬じゃなくて。そうでなければこの言い訳は通用しなかっただろう。



「ちょっと行ってきます」

「なんかあったらすぐ教えてね」



結香子さんたちにぺこぺこ頭を下げてから、空気になりきって席を立つ。そしてなるべく気配を消して外に出た。

生ぬるい風に頬を撫でられる。全然涼しくはないけれど、不思議と暑さがマシになった気がした。


まだ明るいなぁなんて思いながら、深く呼吸をして目を瞑る。

戻ったらちゃんとしなきゃ、普通にしなきゃ。だってせっかくの由真先輩の送別会なんだから。

そうやってこころの中で唱えていたのに。背後から聞こえてきた声に、心臓がドキリと鳴った。



「大丈夫?」

「、っ!」



目を開けて、振り向いて、ミルクティー色が見えて、またドキリ。落ち着きかけていたこころがざわめく。どうやら休まることは無いみたいだ。



「ゆ、由真先輩……」

「もしかして具合悪い?」

「そんなことないです!」

「だって今日全然喋んないじゃん」

「……そうですか? めちゃくちゃ元気、です」

「嘘つけ。俺のせい?」



先輩が私の目線の高さまで腰を折る。だからぱちり、一瞬目が合ったけれど、恥ずかしくなってすぐに逸らしてしまった。



「えーっと……」

「だよね。だってこの前からずっと目合わないもん」

「ご、ごめんなさい……」



私が全然そちらを見ないからか、先輩が元通りの姿勢に戻る。


傷つけてしまったかなと、心配でこっそり先輩の顔を覗いてみれば、どうしてか先輩は笑っていた。