「その時、気がついた。自分の……気持ちに」
好きになれると思っていた。なりたかった。
でも、実際にそれはちょっと違くて。決して、好きになれないだとか、そういうわけではなくて。
「……もしここで、八代がそんな俺でも受け入れてくれたとしても、きっとまたいつか八代を傷つけてしまう」
「うん」
「八代は大切な友達、だから。中途半端な気持ちで応えることはしたくなくて……だから、バレンタイン……貰いに行けなかった」
俺には、小春ちゃんが──
「……あのひとが、いちばんなんだ」
「うん」
「ごめん……八代……」
「ううん、大丈夫。もう、大丈夫だから」
八代が1歩、こちらへ近づく。俺の〝ごめん〟に、何度も首を横に振った。
違う、大丈夫なわけない。
だけど俺は目の前で泣いている八代を、この手で抱きしめることはできない。
「私はそんな星谷くんだから、あの日好きになったの」
その瞬間、八代と初めてきちんと話をした時のことが、頭の中に流れてきた。
『おすすめの本を教えてほしいんだけど』と、突然聞いてきた八代。最初はどうして、と思った。だって、本が好きなようには見えなかったから。
だけどちゃんと読んできて、またおすすめを聞いてきて。今よりもっと愛想の悪かったであろう俺に、何度も話しかけてくれて。
視界がぼやける。こぼれるな、と。そう思いながら、手のひらをぎゅっと握った。
「……っ、ごめ……ん、八代……」
「ううん。ありがとう、話してくれて」
「本当に……俺、八代にずっと救われてたんだ」
「も、もうー! それ今言うのずるいなぁ……!」
泣きながら八代が笑う。今もそうだ。今だって。
そんな八代に、救われているんだよ。


