浅黄色の恋物語

 「あたしさあ、驚いたんだけど最近こむら返りを起こさないのよ。」 小柄なおばあちゃんが言ってきた。
「何だって?」 「たまにね、あって思うようなこむら返りは起きるのよ。 でもね前みたいに何日も苦しむような大きいのは起きなくなったの。」
 その人は揉まれながら不思議そうな顔で話し続ける。
ぼくとしてもただふつうに揉んでるだけ。 秘密の方法が有るわけでもなく道具に頼っているわけでもない。
 ただただ話しながら揉んでいるだけ。 それでもこむら返り病を克服してしまった。
精神的な要因も大きかったんじゃないかなあ? その人はまだまだ70歳。
 地獄で山登りをしたいって言っていたあのおばあちゃん。 ずっと山登りをしてたんだって。
今だって登りたいって言ってたなあ。
 山登りってさあ知識が無いと事故を起こすんだよね。 天気も変わりやすいし気温も下がるんだから。
ぼくも小さな山なら登ったことは有る。 盲学校の裏にも山が在ったから。
 そのおばあちゃんは見てると可愛いんだよね。 小柄なだけじゃない。
話しやすいんだよなあ。 だから飽きない。

 ぼくら施術者が結果を出すためには何が必要か?
その一つは患者さんとの信頼関係だろうな。 信頼が無ければ腕が良くても務まらない。
 反対に腕は2流なのに結果を残せる人も居る。
よく見ているとその人は患者さんの心をしっかりと掴んでいる。
 (この人に体を預けたい。) そう思ってもらえるかどうか、、、。
だからね、どんなに可愛い人でも無愛想であれば人気は取れないんだ。
 反対にお世辞にも可愛いとは言えない人であっても心を掴むことが出来ればうまくやっていけるんだ。
ぼくらの仕事って単純なように見えるけど実は奥が深過ぎて簡単には理解できない仕事なんだよ。
【揉めばいい。 刺せばいい。】で割り切れないんだ。
 最近の施術者はそれが分からない。 だから行き詰まるんだ。
もちろんぼくだって最初から分かってたわけじゃないよ。
10年20年掛かってやっと理解できたんだ。
 落ち着いてどんな患者さんでも対応できるようになったのはつい最近なんだよ。
みんなにはね「30年もやってるなんてすごいなあ。」って言われるけど長けりゃいいってもんでもないから。