浅黄色の恋物語

 3月になると風は少しずつ暖かさを運んでくれるようになる。
とはいえ、まだまだ冬からは抜けきれない。
 冬から春へ変わる時、それはぼくらの心も変わり始める時なのかもしれないな。
だんだんと手袋が要らなくなってくる。 そしてダウンジャンバーを片付ける時が来る。
 周りを見てみると、それまでは縮こまっていた人たちが背伸びをして歩き始める。
植えられている木だって新芽を噴き出してくる。 新たな命の鼓動を感じる。
 我が家のプランターに蹲っているカサブランカも少しずつ動き始める。
冬の間は眠っていたのに3月の声を聴くと動き出すらしい。
 ぼくだって少しは浮かれているのかもしれない。 寒い時期が終わるのだから。
いつものように朝から準備をしていつものように迎えに来る軽自動車に乗っていつものように仕事先に向かう。
ただそれだけなのにいつもとは違うんだよね。
 先月までは巨大な寒波が何度も押し寄せてきて大変だった。
団地に住んでるからまだましだけど、、、。
 だってさ、上と下と隣がお年寄りなんだ。 それでまあガンガンと温めてくれるわけ。
だから寝室でも10℃以下に下がったことは無い。
 一軒家に住んでいた頃は平気で2℃とか3℃まで下がったのにね。

 それでも外に出ると大変だ。
除雪車だって国道とか大きな道ばかりやるから団地の敷地内はモーブルのコースみたいになってる。
 ほんとに凸凹だからね。 車が滑りまくって大変だ。
そんな中でも不意に温かくなったりするから道路はぐしょぐしょだ。 歩くのも躊躇するくらい。
 ただでさえ歩けない町なのに余計に歩けないんじゃ困ったもんだよ。

 それでもね、仕事に行くと文句ばかり言ってられない。 眼前のおばあちゃんたちはもっと大変なんだ。
「さて今日もやりますか。」 白衣を着て恰好だけは決めておく。 言いたいことは山ほど有るけど。
 グループホームの玄関を入る。 いろんな声が聞こえてくる。
20年後にはぼくもお世話になってるのかなあ? それとも?
 なるべくならお世話にはなりたくないよね。 のんびり過ごしたい。
というか、マッサージや鍼には定年が無いからねえ。
80を過ぎても元気に働いている人は多い。 マッサージは体力勝負だから厳しいけど。
 それにぼくも鍼を専門にしたいから、、、。

 とはいうけど今は鍼の仕事って無いんだよね。 なかなか取れない。
訪問だと落ち着いてやれないし。