「お水だけでも持たれては、どうですか?」
「いや。本当に何もいらん」
どこに行くんだろう。何しに行くんだろう。
答えがないと、同じ考えが頭の中をずっとぐるぐるする。
「柚葉、抱きしめても問題ないか」
「え、抱きしめる!?」
考えの読めない表情で言われたものだから、余計に驚いて上擦った声が出てしまった。
「悪い。こんなこと、言うもんじゃないな。私らしくない、すまなかった」
玄関の扉を開けようと、私に背を向けた旦那様。
咄嗟に裸足で玄関に降りて、背中に手を添えた。
「待ってください。まだ、行かないで…」



