「…行かない」
「は?雫玖のだぞ、何言って…」
「うるさい、仕方ないじゃん」
「仕方ないって何がだよ」
ロッカーにある現文の教科書を取りに行こうと立ち上がると、逃がさないと言わんばかりに腕を掴まれた。
「も、痛い!」
「海!」
振り払って逃げるようにその場から離れた。
…うるさい、うるさい。
これ以上喋らないで。これ以上思い出させないで。
廊下へ出るとひんやりとした空気がまとわりついた。
後ろからは懲りずに空人が追いかけて来て泣きそうになる。
「おい、海ってば!」
もうすぐ2限目が始まるというのに忘れているのか、気にしていないのか諦めずに追いかけてくる空人に私が諦めた。
立ち止まったのは、前によく3人で溜まっていた滅多に人が来ない体育館に繋がる階段下。
「……逃げんなよ」
「うるさいって、もう…」
「お前が無視するから」
冷え込む日が続き、上着なしではいられなくなったというのに私達はハァハァと息を切らして少し汗をかいていた。

