The previous night of the world revolution

彼は他のクラスメイトと違って、馬鹿ではなかった。

俺の演技を、あっさりと見抜いたのだ。

最初は、いつも一人でいる内向的なクラスメイトだな、と思っていた。

でも、俺としては出来るだけ、クラスメイト全員と広く浅くの付き合いをしたいから。

彼とも一応、仲良くなっておこうと思った。

当時のルシファーは見るからに根暗で、友達もいなさそうだったから。

話しかけてくる人がいたら、きっとすぐに心を開くだろうという打算があった。

そして、ちょっと優しい言葉をかけて心を掴んでしまえば、何でも情報聞き出し放題だ。

我ながら悪どいことを考えていたものだが、スパイなんだからそういうものだ。

俺はクラスメイトを馬鹿だと思っていたから、この男も、あっさり騙せると確信していた。

でも…彼は、騙されなかった。

それどころかルシファーは、俺が最初から演技をしていることを、見抜いていたのだ。

彼からそれを指摘されたとき、俺は咄嗟に、こいつを殺そうかと思った。

…この男は、あまりに危険過ぎる。

彼の中に、俺はアシュトーリアさんに似たものを感じていた。彼女と同じ、鋭くて、人の心を見透かすような…そんな天賦の才を見た。

だが、勿論…殺す訳にはいかなかった。編入間もなくクラスメイトが死ねば、俺が疑われることは間違いなかった。

代わりに、俺は少し…素を出すことにした。

ここの連中は皆馬鹿だ、と思っていたことを言った。

するとなんと。ルシファーの方も、ここの連中は馬鹿だと言ってのけた。

驚いたものだ。騎士官学校の学生は、皆騎士官学校の学生であることに、並々ならぬ誇りを持っていたのだから。

それを貶すようなことを、彼はあっさりと言った。

ルシファーは、他のクラスメイトとは違う。

そう思った。

おまけに聞くところによると、彼はウィスタリアの家の者だった。

ルティス帝国でウィスタリア家と言うと、よっぽど疎い者でない限り、名前を聞いたことはある。

俺でさえ知っている名家だ。

とんでもない男に声をかけてしまったと思った。

貴族の名家であるウィスタリアの人間と仲良くなれるチャンスがある。これは願ってもない機会だ。

だが、同時に…スパイとして彼に近づくのは、危険な行為でもある。

他のクラスメイトのように、ルシファーが馬鹿であったなら、簡単だった。

しかしルシファーは、馬鹿ではなかった。

演技をしたまま、彼に接触することは出来ない。

情報を聞き出すには是非ともルシファーと仲良くしておきたいが、果たしてそれが可能なほどに、俺は彼に疑われずにいられるだろうか?

悩ましいところだが…馬鹿なクラスメイトから引き出せる情報はたかが知れていると判断し、俺はもう少し…ルシファーに近づいてみることにした。