問われるがままに、俺はアシュトーリアさんの質問に答えた。

実母に虐待されて捨てられたこと。拾われた孤児院で職員に傷物にされたこと。

そこから抜け出して貧民街に移り住み、生きていく為に身体を売っていたこと。

汚い話だというのに、アシュトーリアさんは真剣に耳を傾けていた。



「…そう。それは…辛かったわね」

「…」

「あなたみたいな子供が…可哀想に」

全て聞き終えて、アシュトーリアさんは本当に悲しそうに言った。

憐れんでいるようにも聞こえた。

何故だ。あなた達は、俺みたいな弱い者いじめが好きなんじゃないのか。

「うちには、そういう子は多いわ。親に捨てられて、行き場がなくてマフィアに加入する子は。アイズもその一人よ」

「そうですか…」

彼も、それなりに辛い過去があったそうだからね。

そもそもまともな家庭で育てられていたら、マフィアに入るなんて人生の選択肢が発生するはずがない。

「…あなたの、その目」

アシュトーリアさんは、俺の目を真っ直ぐに見つめた。

「あなたのその目が気に入ったわ」

「目、ですか…?」

俺の目って、どんななんだ。

色が好みとか、そういう話ではなかろう。

「あらゆる汚穢にまみれているのに、あなたの目は光を失ってない。アイズがあなたを連れてきた理由がよく分かる」

「…」

「あなたは、とても綺麗な目をしてるわ」

…綺麗、だって?

「俺の何が、綺麗だって言うんですか」

俺の中に、汚れていない部分なんて何処にもありはしないのだ。

好きでもない人間に身体を触らせ、自分が生きていく為に人を殺した俺の。

人の生き血を啜りながら生きてきた、蛭のような人間の。

何処が、綺麗だって言うんだ。

「俺は汚い。世界で一番汚い人間だ」

「あなたは美しいわ」

「何で、そんなこと」

相手がマフィアのボスだということを忘れて、俺は問い詰めた。

「…あなたの魂は誰にも汚されていない。一人で、自分の力だけで、誇り高く生きてきたあなたの魂は」

「…」

「人を傷つけることが出来るのは、傷つける痛みを知っている者だけ。だから…あなたはうちに相応しいのよ」

…アイズが、俺をアシュトーリアさんに紹介した理由が、ようやく少し分かった。

「それに私も…あなたを他人とは思えないわ」

アシュトーリアさんは、そっと俺の顔に手を伸ばした。

汚い、下賎な人間である俺に。

「あなたに愛をあげる。だから…私に忠誠をちょうだい。今日からあなたは、私の息子になるのよ」

その言葉は、嘘ではなかった。

本物の愛だった。

俺は、母親の愛というものを知らない。そもそも、愛された経験など一度もなかった。

だから、初めてそれを他人から向けられたとき、俺は。

…素直に、嬉しかったのだ。



…涙が、出るほどに。