…服を着替えてから。

「なぁ、アイズ」

「何か?」

俺は昨日から考えていた疑問を、アイズにぶつけることにした。

「あの人…アシュトーリアさん、って…本当にマフィアなのか?」

「勿論だよ。マフィアの拠点だって言ったでしょ?」

「…とてもそんな風には…」

あの人が、常識の通じない暴力装置だとは、とても。

「まぁ、そう見えるだろうね。確かにあの人は、マフィアの頭目というよりは、私達にとってのお母さんだ。本人もそのつもりでいる。マフィア内の人間は、皆家族だから」

「…」

やっぱり、アイズもそう思ってるのか。

「でもね、優しいのは身内にだけだ。家族を傷つける者に対しては全く容赦がない。あの人はマフィアだ。君の認識は間違ってない」

「…俺は部外者じゃないのか」

その理論で行くと、俺はこんなお客様待遇してもらえる立場じゃないんじゃないか。

「君は部外者じゃない。家族である私が連れてきたお客様で…そして、今や君も、アシュトーリアさんの息子の一人だ」

「ちょっと待って。それはおかしい」

そこについて了承した覚えは、全くない。

「何で俺まで勝手に家族にされてるんだ」

「私は最初から、そのつもりで君をここに連れてきたからね」

は?

今、何て言った?

「君はマフィアに向いてる」

「なっ…何を勝手なことを。俺はマフィアになんて…」

入らない、と言ってやりたかった。

だが、それを言ってしまうと…俺は完全に部外者ということになる。

つまり、アシュトーリアさんとやらも、俺を客人扱いする理由がなくなる。

何だ。その脅迫じみた勧誘方法は。

「お前…卑怯過ぎるぞ」

「分かってるよ。まぁ、断りたいなら断ってくれても構わない。この後アシュトーリアさんに呼ばれてお茶会だから、そのとき丁重に断れば良い。断ったからって、殺されはしないよ。私が保証する」

「は?お茶会?」

ちょっと待て。色々おかしい。

断っても殺されないことには安心したが…アシュトーリアさんとお茶会だと?

「昨日言ってたでしょ。色々お話ししたいって。アシュトーリアさんは、君とお喋りしたいらしい」

「は、はぁぁ…?」

「私も呼ばれてるけれど、生憎私は報告書の作成で忙しくてね。一人で行ってきなよ」

…目眩がした。

「それじゃ、まぁ精々頑張ってね」

胡散臭さMAXの笑顔で宣うアイズを、殴らなかった自分を褒めたい。