エレベーターの最上階。
重厚な扉の先に、マフィアのボスとやらがいた。
「…お帰りなさい、アイズ」
「ただいま、アシュトーリアさん」
俺は、驚いた。
色々と驚いた。
何に驚いたかって、そのアシュトーリアさん、の容姿。
マフィアのボスと聞いてイメージしていたのは、いかにも強面で、険しい顔つきをしていて、威厳があって、圧倒的な威圧感のある人。
それがどうだ。目の前の御仁に、そのような気圧されるような威圧感は一切ない。
執務室らしいその部屋の中央で、革張りのソファに座ったその人は…物腰柔らかで、おっとりとした雰囲気のある…。
…若い、女性だった。
…男だとばかり思ってたんですが。
しかも。
「怪我はしなかった?何かトラブルは?…あぁ、あなたがいなくて私はとても寂しかったわ」
そう言って、アシュトーリアさんはわざわざソファから立ち上がって、アイズをぎゅっと抱き締めた。
その姿は、マフィアの頭目と言うより。
…息子を心配する、お母さんのようで。
俺は一体何処に迷い込んだのか。マフィアの拠点と聞いていたのだけど、保育所か何かと聞き間違えたのだろうか、と思った。
アイズもアイズで、慣れているようで、抱き締められたまま答えた。
「怪我はありませんが、トラブル…いや、手違いが一つ」
「手違い?」
「我々が捕まえる前に、そこの浮浪者がうっかり殺してしまいましてね。拷問し損ねました」
「…浮浪者…」
と、そこでアシュトーリアさんは、アイズの後ろに隠れていた俺に気づき、じっ…と見つめた。
…おい。アイズ。
なんていうタイミングで俺を紹介するんだ。
背中に冷たいものが伝った。
お前、何余計なことしてくれてんだ?と目くじら立てられるだろうか。この物腰柔らかな女性がそんなことをするとはとても思えないが、でもマフィアって言ったらそんなことをするからマフィアなのであって。
「そう…あなたが?」
「は…はい」
マフィアのボスから質問をされ、蚊の鳴くような声で肯定する。
直視出来なくて、俺は足首が沈みそうなほどふかふかの絨毯に視線を逸らした。
「それでアイズは、何でこの子を連れてきたの?」
「なんでもこの人、奴に強姦されかけて殺したそうで。これは間接的に我々の被害者かなと思いまして、連れてきました。ついでに肝も据わってるし、うちでやっていけるかなと」
…ん?
「まぁ、そうだったの…。それは気の毒なことをしたわね。ごめんなさいね」
アシュトーリアさんはアイズから離れてこちらに歩み寄り、俺の髪をそっと撫でた。
え、ちょ。
え?
「そういうことなら、構わないわ。この子をうちに入れましょう」
「あの、え…は?」
ちょっとあなた。今、何て?
「早速、まずは服をなんとかしましょう。アイズ、この子に服を貸してあげてくれる?それとシャワー室に連れていってあげて」
「それは良いですが、この小さな子供に私の服が着れますかね?」
「確かに、ちょっと大きいわね…。じゃあ、シュノの服を貸してもらいましょう」
「ふふっ。分かりました」
アイズ。何で今笑った?
「明日になったら、色々お話ししましょうね」
朗らかに笑うアシュトーリアさんに、俺はちょっと待ってくださいと、そう言おうと思った。
…だが、マフィアのボスに逆らってどうなるかなんて想像したくもないので、半ばパニック状態で、こくこくと頷いた。
重厚な扉の先に、マフィアのボスとやらがいた。
「…お帰りなさい、アイズ」
「ただいま、アシュトーリアさん」
俺は、驚いた。
色々と驚いた。
何に驚いたかって、そのアシュトーリアさん、の容姿。
マフィアのボスと聞いてイメージしていたのは、いかにも強面で、険しい顔つきをしていて、威厳があって、圧倒的な威圧感のある人。
それがどうだ。目の前の御仁に、そのような気圧されるような威圧感は一切ない。
執務室らしいその部屋の中央で、革張りのソファに座ったその人は…物腰柔らかで、おっとりとした雰囲気のある…。
…若い、女性だった。
…男だとばかり思ってたんですが。
しかも。
「怪我はしなかった?何かトラブルは?…あぁ、あなたがいなくて私はとても寂しかったわ」
そう言って、アシュトーリアさんはわざわざソファから立ち上がって、アイズをぎゅっと抱き締めた。
その姿は、マフィアの頭目と言うより。
…息子を心配する、お母さんのようで。
俺は一体何処に迷い込んだのか。マフィアの拠点と聞いていたのだけど、保育所か何かと聞き間違えたのだろうか、と思った。
アイズもアイズで、慣れているようで、抱き締められたまま答えた。
「怪我はありませんが、トラブル…いや、手違いが一つ」
「手違い?」
「我々が捕まえる前に、そこの浮浪者がうっかり殺してしまいましてね。拷問し損ねました」
「…浮浪者…」
と、そこでアシュトーリアさんは、アイズの後ろに隠れていた俺に気づき、じっ…と見つめた。
…おい。アイズ。
なんていうタイミングで俺を紹介するんだ。
背中に冷たいものが伝った。
お前、何余計なことしてくれてんだ?と目くじら立てられるだろうか。この物腰柔らかな女性がそんなことをするとはとても思えないが、でもマフィアって言ったらそんなことをするからマフィアなのであって。
「そう…あなたが?」
「は…はい」
マフィアのボスから質問をされ、蚊の鳴くような声で肯定する。
直視出来なくて、俺は足首が沈みそうなほどふかふかの絨毯に視線を逸らした。
「それでアイズは、何でこの子を連れてきたの?」
「なんでもこの人、奴に強姦されかけて殺したそうで。これは間接的に我々の被害者かなと思いまして、連れてきました。ついでに肝も据わってるし、うちでやっていけるかなと」
…ん?
「まぁ、そうだったの…。それは気の毒なことをしたわね。ごめんなさいね」
アシュトーリアさんはアイズから離れてこちらに歩み寄り、俺の髪をそっと撫でた。
え、ちょ。
え?
「そういうことなら、構わないわ。この子をうちに入れましょう」
「あの、え…は?」
ちょっとあなた。今、何て?
「早速、まずは服をなんとかしましょう。アイズ、この子に服を貸してあげてくれる?それとシャワー室に連れていってあげて」
「それは良いですが、この小さな子供に私の服が着れますかね?」
「確かに、ちょっと大きいわね…。じゃあ、シュノの服を貸してもらいましょう」
「ふふっ。分かりました」
アイズ。何で今笑った?
「明日になったら、色々お話ししましょうね」
朗らかに笑うアシュトーリアさんに、俺はちょっと待ってくださいと、そう言おうと思った。
…だが、マフィアのボスに逆らってどうなるかなんて想像したくもないので、半ばパニック状態で、こくこくと頷いた。


