マフィア。反社会組織。

何処の国にも、そういうならず者はいる。

貧民街は犯罪の巣窟だ。俺は直接関わったことはないが、俺の客の中には、反社会組織所属の人間もいた。

『青薔薇連合会』の名前も、勿論聞いたことがある。

こいつ、こんな若くてマフィアなのか。

え。じゃあ俺、そのマフィアの偉い人に目をつけられたってことか?

「…」

…折角孤児院から抜け出して、それなりの自由を手に入れたというのに。

俺はもしかして、この後手足をばらばらにされるのだろうか。

マフィアなんかに関わって、ろくなことはないだろう。奴ら、頭の中身は暴力だけで構成されているような人間の集まりなのだから。

俺の中のマフィアのイメージは、大概の面倒事を、「そんなの殴って解決すれば良いじゃん」と涼しい顔で言ってのける。そんな感じだった。

偏見も甚だしいが、実際、マフィアの縄張りに手を出した不届き者が、路地裏で袋叩きに遭って目玉を飛び出している姿を何度か見たことがあるのだ。

そんなのを見れば、マフィアが単なる暴力装置だと認識してもおかしくない。

「それで…何で、俺をここに連れてくる?」

ここは、マフィアの拠点なのだろう?

俺みたいな部外者を、何故?

「さっき言ったでしょ。アシュトーリアさんに会わせたいんだ」

「アシュトーリアさんって…」

「『青薔薇連合会』のリーダー。ファミリーのボスだね」

…マフィアのボスと、会わせるだって?

そのときの俺の気持ちを例えるなら、今すぐ安全装置のない核爆弾のある部屋に閉じ込めると言われたようなもの。

何故自分から、危険に飛び込まなければならないのか。

「ちょっと待て。何で俺がそんな人に?」

「君が、相応しいと思ったから。それだけだよ」

「…?」

俺が…マフィアのボスと会うのに相応しい?

こんな、しがない売春夫と?

全くもって、訳が分からなかった。

「…うっかり殺されたりしないだろうな?」

「あはは。まぁ機嫌を損ねなければ大丈夫なんじゃない?」

他人事だと思いよって。こいつは。

マフィアの頭目が何で機嫌を損ねるかなんて、俺に分かるはずがないだろう。

こうなったら沈黙だ。口は災いの元とも言うし、黙っておけば怒りに触れることもなかろう。

…いや、黙ってたらそれはそれで怒るか?

分かるはずがない。奴ら、俺達庶民とは比べ物にならないくらい思考回路が暴力的なのだから。

とにかく、生きて帰れることを願うしかなかった。

ひとまず、殺されるようなことがあれば…アイズを一生恨もう。