The previous night of the world revolution

あぁ、こいついたのか。

そういえばいたな。喋らないし、さっきから真っ白になってマネキンのように固まっているから、完全に存在を消してしまっていた。

考えてみれば、こいつにも大きな責任があるんだよなぁ。この馬鹿がマフィア撲滅なんてアホなことを言い出さなければ、こんなことにはならなかったのに。

犬でさえ、喧嘩をする相手は選ぶぞ。

こいつ、犬以下か?

「待ってください…。『青薔薇連合会』に、マフィアに協力を求めるなど…」

そのまま永遠に真っ青になっていれば良いものを、無駄に口がついているからぐだぐだと喋り出す。

「協力ではない。一方的にこちらがすがるんだ。我々に選択肢はない」

この期に及んでもまだ、糞ガキのルーシッドは、俺達に頼りたくはないようだった。

頼ると言うか、脅迫してるんだけど。

断れば容赦なく潰すし。

「マフィアを言いなりになっては駄目です。それは帝国騎士団の『正義』に…」

「…へぇ」

今になっても。まだ。

この期に及んで、まだ。

「正義」なんて言葉を口にするか。

「あなた、俺の後任で四番隊隊長になったとかいう人ですよね?スヴェトラーナ家のお坊っちゃま」

「…それが、何です」

ルーシッドは青い顔で、それでも俺を睨み付けた。

「あなたに言いたいことがあるんです。先輩からの大事なアドバイスですよ」

ここは元帝国騎士団の四番隊隊長として、将来有望な後輩にアドバイスしてあげるべきだろう。

そういえば俺、後輩とか欲しかったもんなぁ。

俺は、後輩は大事にする質なのだ。

だから、はっきり教えてやろう。

現実、というものを。



「…お前、馬鹿か?」

俺は、心から。

この男を、馬鹿だと思っていた。

「正義?あなた方の正義って、これですよ。王家の為に味方を平気で裏切る。罪のない人間を罰し、罪のある人間を無罪にする。これがあなた方の正義なんですよ」

「…そ、それは…」

「認めろ。正義か悪かで言うなら、お前らは今、完全に悪の方なんですよ。何もかも自業自得なんですよ。組織ごと潰さなかったことを感謝して欲しいです」

お前が、かつての俺が、盲目的に信じてきた帝国騎士団の正義なんて、紙屑のように薄っぺらだった。

だから俺は、その正義をくしゃくしゃに丸めて、ゴミ箱に叩き込んだのだ。

…この国に、正義なんてあるものか。

しかし、ルーシッドはそれでもまだ、信じなかった。

認められないのだ。それを認めてしまえば、彼のアイデンティティは崩壊する。

…かつての俺がそうであったように。

「でも、でもマフィアは。お前達が、この国からいなくなれば…清浄な世界に。それが帝国騎士団の…!」

「…」

なら、見せてやろう。

俺が信じた、「正義」の成れの果てを。

俺は左手首を覆うリングブレスレットを外し、隠されていた傷を、ルーシッドの目の前に掲げた。

その痛々しい傷に、誰もが息を呑んだ。