The previous night of the world revolution

ルルシーが、紅茶を淹れてくれたので。

「…」

美味しいなぁ、ほっとする、と俺は一人ほっこりしてるのに。

ルルシーは眉間に皺を寄せて、ハエでも払うように、しっしっ、と手を振っていた。

「何やってるんですか?」

「ルレイアフェロモンが飛んでくるんだよ」

そんな。酷い。

俺だって好きで飛ばしてるんじゃないのに。

「それより、何でお前、うちのスペアキー持ってるんだ?あと、指紋認証はどうやって突破した?」

「…」

「…」

「…俺さっき、ウィルヘルミナに会ってきたんですよ」

「…スルーするなよ」

「ウィルヘルミナのこと、覚えてます?」

強引に話を逸らすと、ルルシーは溜め息混じりに頷いた。

「覚えてるよ。忘れるはずないだろう」

ルルシーにとっての、元上司だったもんね。

「俺、その人と寝てきたんです」

「…よくあの女を引っ張り込めたな。…話したのか?」

「えぇ」

「そうか」

ウィルヘルミナにとっても、非常に知りたくない真実であっただろうが。

俺にとっても、真実を話すことは…とても、とても苦しいことだ。

深い傷口に自分から手を突っ込むようなもの。

帝国騎士団への憎しみで上書きしても、未だに消えない。

裏切られたことの、ショックが。

「驚いてただろ?」

「どうなんですかね。知りたくなかったのは確かでしょうけど」

「その弱味を突いて、ベッドに引っ張りこんだ訳だな?」

「まぁ、ざっとそんな感じです」

「相変わらず、魔性の男だな」

全くだ。

昔は、超うぶな童貞だったんだけどな。

まさかあんな手段で、ウィルヘルミナを落とす日が来ようとは。

「ウィルヘルミナは、罪悪感に耐えきれずに、他の隊長達にも真実を話すかもしれないな」

「一応釘は刺したから大丈夫だとは思いますけど…」

…まぁ、最悪それで『連合会』を守れるなら、知られても良い。

大変なことになるだろうなぁ。

オルタンスとしては真実なんて暗闇に屠ってしまいたいだろうけど、全ての隊長が彼のような冷徹漢ではない。

良心の呵責に耐えられない者もいる。ウィルヘルミナもそうだし、多分六番隊のリーヴァなんかは、真実を知れば、是正を求めるだろう。

あの青二才の四番隊隊長も、生来曲がったことが嫌いなようだから…感情は抜きにして、自分達に過失があるなら、それを正そうとするのではないだろうか。

それに、姉も。

「…どうなるかな。隊長達が、真実を知ったら」

「…まぁ、大変なことになるでしょうね」

帝国騎士団創立以来の大事件だ。

当然、オルタンスも、女王も、ゼフィランシアも、責任を追及されるだろうし。

このスキャンダルが世間に知れ渡れば、騎士団全体が非難されるだろう。

更に、俺が冤罪であると分かれば、これまで持っていた利権が全部帰ってくることになる。

罪を犯したことで剥奪されていた貴族位も返還されるだろうし、帝国騎士団からの永久追放もなかったことになり、また四番隊隊長に逆戻りだ。

他の隊長からは何て言われるだろう。謝られるだろうか。憐れみの情を向けられるだろうか。

考えただけで、吐き気がした。