「最初に会ったときは、私、あなたのこと疑ってた。元帝国騎士団なんて、信用ならないって」

「…ですよねー…」

分かっていたこととはいえ、正面切って言われるとちょっとへこむ。

露骨に睨まれてたもんね。

「でも…今ではルレイアは、私が『青薔薇連合会』で二番目に信用してる人になってる」

「そうなんですか…」

俺、そんなに…そこまで信用されてるのか。

古参のアイズやルルシーを差し置いて。

なんだか申し訳なくなってくる。

「でも、俺…やってる仕事は、多分あなたのお兄さんがしたこととあんまり変わりませんよ」

女性にとっては、敵にも等しい。

俺の場合…無理矢理ではなく、一応合意の上ではあるが。

「ううん、あなたは違う。あなたからは…ちっとも嫌悪感は感じないもの」

「…」

「あなたは、自分の欲の為にやってるんじゃないから」

…確かに。

それはあくまで、仕事の延長だ。

シュノさんは俺の目を見て、はっきりと言った。

「だからあなたは好きなの。私は、ルレイアのことが好き」

「…」

…今まで、何度もその言葉は言われてきた。

けれどもシュノさんから発せられた「好き」は、それらとは違う気がした。

俺はこの言葉に、何て答えるべきなんだろうか。

「良いのよ、ルレイア。あなたが私の気持ちに答えられないことは分かってる。別に、あなたの恋人になりたい訳じゃない」

「…」

俺はどうあっても、彼女の思いには答えられない。

堕ちるところまで堕ちた人間に、今更人並みの幸せなんて望めない。

シュノさんも、それは分かっている。

分かっているけど、敢えて気持ちを伝えた。

それは…。

「…恋人になって欲しい訳じゃない。ただ…私の忌まわしい記憶を、あなたで塗り替えて欲しい」

「…シュノさん…」

「それは…駄目?」

…なんだか、シュノさんに対して、物凄く不誠実なことのように思える。

彼女を恋人にする訳でもないのに。

仕事ではいくらでも女を抱く。そこに感情はないし、罪悪感もない。

それは相手の女が、いくら傷つけても良い存在だからだ。

シュノさんは違う。シュノさんは…絶対に、傷つけたくない人だ。

だけど、それでシュノさんを救えるなら。

「…俺に、そんな資格がありますかね」

「あるわ。あなたは…私が選んだ人だから」

同じだ。彼女もまた、蜜に釣られるように俺に引き寄せられた一人。

けれど、それで。

…それで、シュノさんを救えるなら。






「…もう、俺に出来ることなんて、それくらいしかありませんからね」



それでシュノさんを救えないのなら、俺には何の価値もない。