The previous night of the world revolution

近くにあった、お洒落なカフェに入って。

頼んだ飲み物が来てからも、シュノさんは何か言いたそうな、けれども踏ん切りがつかないような…複雑そうな表情だった。

うん、何か言いたいんだろうとは分かるが。

何が言いたいのか、俺にも分からない。

多分、色恋の話じゃない。

そんな浮わついた話じゃなくて、もっと言いにくいことだ。

成程、彼女はこれを言いたくて、今日俺を誘ったんだな。

恐らく相当覚悟して来たのだろうけど、やっぱりまだ言えない。

それは俺が信用ならないからか、それとも…。

「…ねぇ、シュノさん」

いつまでも沈黙が続くと余計切り出しにくかろうと、俺の方から声をかけた。

シュノさんはびくっ、として顔を上げた。

そんなに怯えなくても良いのに。

俺って、そんなに怖く見えるのか?

「別に、何を言ってくれても良いですよ。俺を傷つけることでも、存分に言ってください」

傷つけられても文句は言えない人間だと自覚してるからな。

汚いところだろうと醜いところだろうと、何でも押し付けてくれれば良いのだ。

「それであなたを嫌いになったりはしませんから」

「…ルレイア…」

「だから何でも言ってください。何でも受け止めますから」

これは、本心であった。

いつもの、女を騙すときの口八丁ではない。

家族相手に、嘘をついたりはしない。

「…聞きたいことがあるの。聞いても良い?」

「どうぞ、何なりと」

「…傷つけること聞いても?」

「あぁ、俺が帝国騎士団にいた頃の話?」

「…」

少しの沈黙の後、こくりと頷くシュノさん。

俺を傷つけることと言ったら、まぁそれしかないもんな。

「別に構いませんよ。そんなことじゃ俺はもう傷つきませんから」

過去のことを思い出して、復讐心を燃え上がらせはしても、傷つくことはない。

「…私も、そんなに知ってる訳じゃないの。ルルシーはあんまり喋らなかったから…。…ルレイアは貴族の生まれで、帝国騎士官学校にいたのよね?」

「そうですよ」

ルルシーが俺の過去について最低限しか語らなかったのは、それを喋れば俺を傷つけると思ったからだろう。

全く、シュノさんと言い、優し過ぎやしないか。マフィアなのに。

「騎士官学校で、ルルシーと会ったのよね?」

「えぇ」

今でも、素敵な思い出だ。

ゴミみたいな帝国騎士官学校時代で、彼の存在は正にメシアであった。

俺はルルシーに足を向けて眠れないな。

「ルレイアは、きっと人気者だったんでしょうね。学校でも…。お友達も一杯いたんでしょ?」

あれぇ。ルルシー、俺が学校でいじめられていたことを話さなかったのか。

「それはシュノさん。大きな誤解というものですよ。人気者どころか俺は、学園創立以来のいじめられっ子ですからね」

「…そうなの?」

驚き顔のシュノさん。俺は人気者に見えるのか?

とてもじゃないがあの頃の俺は、人気者になれる要素は欠片もなかったように思うのだが。

悪い意味での人気者ではあったけど。

「相当やられましたよ。寮でね…。全寮制だったから。ルームメイト全員先輩で、俺がほら、ウィスタリアとかいう、無駄に目立つ家だったものだから。おまけに、才能の欠片くらいはありましたし」

いじめられる条件は役満だな。

「今でも傷が…。あ、ほら。これ火傷の痕。ライターの火」

袖を捲って、肘の辺りに残っている火傷痕を見せる。

女の子に何を見せるんだと思われるかもしれないが、彼女もマフィア。この程度の傷で怯えたりはしない。

この傷が、俺の帝国騎士官学校時代の全てを表していると言っても過言ではない。