The previous night of the world revolution

「ルレイア…。どうかしたの?」

俺の姿を見たアシュトーリアさんは、珍しく余裕がなかった。

アイズの生死が不明というこの状況。彼女は相当堪えているのだろう。

だからこそ、俺に出来ることはやっておきたいのだ。

「アシュトーリアさん。俺をアシスファルト帝国に行かせてください」

最早、前置きは必要ない。俺は単刀直入に、彼女にそう頼んだ。

「あなたを…?」

「はい」

「…」

さすがに、彼女は即答を避けた。

「…行きたい気持ちは私も同じよ。でも…だからこそ、慎重にならなきゃいけないわ。今、向こうは危険な状態なのよ」

「はい。分かっています」

「…それでも敢えて申し出るということは、それなりの理由があるんでしょうね?」

その通りだ。

それだけの根拠がない限り、俺だって無謀に突っ込んだりはしない。

俺もあながち、馬鹿ではないからな。

「…俺は帝国騎士団時代に、アシスファルト帝国に出張に行ったことがあります」

「そうなの?」

「はい。目的は…確か、式典か何かだったと思いますが」

まぁ、この際何が目的だったかなんてどうでも良い。

重要なのは、そこではない。

「俺はそのとき…アシスファルト帝国で、とある貴族の娘と知り合ったんです」

「…貴族の…」

「名前は…確か…」

記憶を辿る。彼女の悲嘆に暮れた表情。涙に濡れた瞳。

「シャリヤ…。シャリヤ・アルルイーダ。そんな名前でした」

「アルルイーダ…。聞いたことがあるわね。アシスファルトではかなりの名家よ。そんな人と知り合いなの?」

知り合いというほどの仲では、ない。

式典で会って、少し話した程度の仲だ。

彼女が俺を覚えている保証はない。俺がさっきまで彼女を忘れていたように、彼女も俺を忘れているかもしれない。

けれど。

「上手く彼女を手篭めに出来れば、彼女を通して『SiV』に圧力をかけることも可能です」

「…」

彼女は確か、もうすぐそれなりの貴族の家と政略結婚させられると言っていた。

つまり、権力だけはアシスファルトでも有数の人間ということだ。

そんな人間が味方になれば、裏から『SiV』に圧力をかけることも出来る。

上手く行けば、流血を避けて『SiV』を黙らせることが出来るかもしれない。

そして、アイズレンシアも…。

しばらく考えて、アシュトーリアさんは重々しく口を開いた。

「…リスクが大き過ぎるわ」

「…」

俺の仮定は、全て「上手く行けば」という条件付きだ。

シャリヤ・アルルイーダが俺を覚えているかも分からない。

覚えていたとして、俺に協力する保証もない。

俺を覚えてさえいてくれれば、彼女自身を落とすことは出来ると思うが。

しかし…家の名前を使って『SiV』に介入することはどうだろうか。

彼女だけのことにはならない。彼女が嫁いだ家の人間を、どう納得させるのか。

シャリヤに、それだけの力があるだろうか。

分からなかった。上手く行かない可能性の方が高いくらいだった。

「分かっているでしょう?もし失敗すれば…敵の巣窟で路頭に迷うことにもなりかねないのよ」

「…」

「…最悪、アイズに加えて、あなたまで失うことになったら…」

「…心配してくれるんですか、アシュトーリアさん。俺なんかのことを」

アイズレンシアが助かる可能性が少しだけでもあるというのに、彼女は俺のリスクを考えて、それを止めようとしていた。

俺にはそれが…奇妙なことのように思えた。