The previous night of the world revolution

「…」

自分に話しかけてくる人間が、教室内にいるとは思っていなかった。

だから、反応が物凄く遅れてしまった。

声のした方向に身体を向けると、その人は俺の方を向いてこちらを見ていた。

…あぁ、この人もしかして、俺に話しかけたのか?

「…お前に話しかけたんだけど」

「…」

何も答えない俺に、彼は戸惑いながらそう続けた。

「一人で何やってんの」

「…何も」

掠れたような声で、俺は答えた。

これが何かやっているように見えるのか。

何もやってないよ。ただ座って、息をしてるだけだ。

「…俺の名前知ってる?」

「…さぁ」

俺は当時、彼の名前を覚えてすらいなかった。

そもそも、クラスメイトの顔と名前すらちゃんと覚えていないのだ。

もう五年もたったというのに。

人間、覚える気がないことはなかなか覚えられないものだ。

「ルキハだ。ルキハ・シェルシュ・ティグラーダ。先月来た転入生」

覚えていないと言われたにも関わらず、嫌な顔一つせずに、彼は名前を教えてくれた。

…あぁ、転入生。

そういえば、入ってきたんだっけ。

「その転入生が、何か?」

「暇なのか?いつも放課後は一人でいるよな」

「…」

「暇なら、一緒に勉強でもしないか?ここ、前いた学校より授業のペースが早くて…。ついていくのに苦労してるんだ。だから、教えてもらえるとありがた…」

「あなた、何でそんな顔してるんですか」

「…」

俺は、ふと頭に浮かんだ疑問を口にした。

初めて、転入生の顔を正面から見た。

そして最初に出てきたのが、その質問だった。

自分でも、ほとんど無意識だった。

「何でと言われても…生まれつきこの顔なんだが…」

いきなり妙なことを質問されたルキハは、面食らったようだった。

それはそうだろう。

別に容姿のことを言ってるんじゃない。君は随分なイケメンだ。

そういう意味ではなく。

「何で楽しくもないのに笑ってるのか、って聞いてるんです」

「…」

「クラスメイトに好かれるのが、そんなに大切ですか」

ルキハが演技していることを、俺はあっさりと見抜いていた。

この学校に来たときから、ルキハは自分を偽っている。