The previous night of the world revolution

その日、俺は一人で街を歩いていた。

よく考えたら、俺はマフィアに入るまで、一人で街を歩いたこともなかった。

忙しかったもんなぁ、馬鹿みたいに。

俺は一般市民の生活を観察したことすらなかったのに、よく国の趨勢を左右する職に就いていたものだ。

オルタンス達は一度、市井に降りて人々の生活というものを観察してみるべきだな。そうすれば、人々が何を必要としているのか、少しは分かるはずだ。

まぁ、今の俺は人が嫌がることをするのが仕事なんだけど。

行きつけのネイルサロンを通り過ぎ、俺は目的地に急いだ。

ちなみに今日の俺は、いつもの派手な装いはしていない。お気に入りだった蝶のネイルも綺麗に落としているし、顔はスッピン。黒ずくめの格好では顰蹙を買うかと思って、今日は白いシャツを着てきた。

普段の格好を思うとかなり控えめである。

何よりスッピンというのが気に障る。少し前までは常にスッピンだったのだが、今では化粧をしていないとむかむかする。

香水だって、いつもの妖艶な香りじゃなくて、フレッシュなシトラス系の香りだ。正直、あまり好みじゃない。

俺はもっとこう、嗅いだだけでぞくっとするような、欲を誘うセクシーでオリエンタルな香りが好きなのだ。

とはいえ、昼間に街を歩くなら、そうもいかない。

というのも、ルルシーに怒られたからだ。昼間から街の皆さんにフェロモンをぶちまけながら歩くなと。

仕方ないので、昼間に外を歩くときは、あくまで爽やかな青年の素振りを見せなければならないのだ。

人を性フェロモン噴霧器みたいに言わないで欲しい。

まるで俺がビッチみたいじゃないか。

そりゃまぁ、あながち間違いでもないのかもしれないけど。

人聞き悪いよなぁルルシー…なんて思いながら、曲がり角を曲がったとき。

一人の女性が、男数人に囲まれているのが目に入った。