The previous night of the world revolution

「…ところで、あなた名前は?」

「へ?」

「何処の家の方?」

「…」

どうやら、酔いはほとんど冷めたらしいが。

今になってようやく、そこを気にするのか。

もう少し早く気にして欲しかった。

「…えっと。俺…この制服を見ると明らかなように」

制服、チョコクリームで汚れてるからあんまり見られても困るけど。

「…!」

ようやく酔いが冷めてきたシャリヤさんは、俺の制服を改めて見て、何かに気づいたらしかった。

成程。やはり気づいていなかったか。

「ま、まさか…ルティス帝国の?」

「…あはは…」

シャリヤさんは目を見開いて、俺と距離を取った。

「まさか…私、ルティス帝国の帝国騎士団の方を…」

「あぁ…まぁ、俺は弱小隊長なんで…そんなに気にしないでください」

大人二人には散々小学生扱いされる始末ですから。

「ご、ごめんなさい。何と詫びれば…。大変な失礼を…」

「大丈夫ですよ。俺本当大したことない身分なんで。シャリヤさんの元気が出て良かった」

それ以上に大事なことはない。汚れた制服も…まぁダメージが深いが、洗えば何とかなる。

…あ、名前で呼んじゃった。

でも、シャリヤさんは嫌な顔はしなかった。

「もう大丈夫ですか?ご家族を一緒に探しましょうか」

「いえ、あの…。待ち合わせ場所を決めてあるので、大丈夫です」

え。そうなの?

「それより…その、もし…もし差し支えなければ」

「はい?」

「あなたの…お名前を…」

「…」

それは…正直、ちょっと困るなぁ。

あまり、名前を出してはいけないことになっているのだが…。

でもそれで、少しでも彼女の心の慰めになるのなら。

「…ルシファー、です」

ファーストネームだけ、こっそり教えるくらいは。

「ルシファー様…」

「内緒にしてくださいね」

「はい。…本当に、ありがとうございます」

もう大丈夫そうだ。

少なくとも、心の中で一つの区切りはついたように見える。

空元気なのかもしれないが…。

「…それじゃ、お元気で。シャリヤさん」

「はい。あなたも…」

頭を下げる少女に手を振って、俺はこれきり会うこともないであろう少女のもとを後にした。






「…ルシファー様…」

少女は恍惚を帯びた声で、その名前を呼んだ。

まるで、宝物のような響きだった。