The previous night of the world revolution

帰らないと言われてしまった。

俺にどうしろと?

「帰らない」

「…あ、そうですか…」

そうですかじゃないだろ。それを説得して帰すのが俺の仕事だろ。

そうなのか?

俺はただ…ぶつかられて、制服汚された被害者なのだが?

「でもお連れの方、きっと心配してますよ」

「…」

シャリヤさんは、そっと目を逸らした。心配されてることは分かってるんだな。

「帰りましょう?」

「…嫌」

こういうときって、本当どうすれば良いんだろうね。

強引に連れて…いくなんて度胸が、俺にあるはずないしなぁ。

「何で嫌なんです?」

「私は…自分の家が、嫌いなんだもの。家になんて、家族のところになんて…帰りたくない」

…なんだか、雲行きが怪しくなってきた。

俺はただ式典にやって来ただけなのに、酔っぱらった女の子にあらぬ人生相談をされているようだ。

「はぁ…そうなんですか。家族が…家族と仲が良くないんですか?」

「…」

シャリヤさんはこくりと頷く。

まぁ…ルティス帝国でも、仲良し家族な貴族なんて滅多にいないけど。

ほとんどの貴族は家督相続権を巡って争ったり、もっと血生臭いことに巻き込まれたりもする。

俺の場合も、姉さんとは仲が良いけど…母や兄とはめっきりだもんなぁ。

富や権力を持っている代わりに、家族の絆なんてものは雀の涙ほどしかない。大抵の貴族はそんな感じだ。

アシスファルトでもそうなのだろうか。

「…それに私、もうすぐ結婚するの」

「どぅへっ!?」

少女のいきなりの結婚報告に、俺は思わず変な声が出た。